のび太の魔界大冒険 『のび太の魔界大冒険』(1984)
 
  もし、魔法が使えたら……どんな事でも楽にカンタンにできてしまうはず。そんな空想に耽けるのび太は、もしもボックスを使うことを思い付く。ところが魔法の勉強はしなければならず、術によっては高価な道具が要るなど、のび太は期待を裏切られる。勝手の違う魔法世界で苦労しているうち、二人はいつものメンバーと共に偶然にも「魔界接近説」の提唱者である満月博士(声・中村正)と娘・美夜子(声・小山芙美)に出会う。魔界接近説によれば、伝説の悪魔とは他の惑星から来たエイリアンであり、今まさに地球を侵攻しようとしているのだ。不安を感じたドラえもんとのび太は元の世界に帰ろうとするが、もしもボックスが破壊されてしまい不可能になる。戻れなくなった二人に、悪魔の攻撃で猫に変えられた美夜子が助けを求めてきた。美夜子は、彼らが大魔王デマオン(声・若山弦蔵)を倒すべく運命に選ばれたのだという。「千里千年を見通す予知の目よ!告げよ!魔界に入り、魔王を倒す選ばれし勇士たちを!」 彼女の示す水晶球には、ドラえもん、のび太、しずか、スネ夫、ジャイアンの姿が映されていた。 
 

  この事件の発端となったのは、おなじみの道具「もしもボックス」です。私は、このもしもボックスは一種のタイムマシンであると考えています。どちらかというと精神だけをその先の肉体で体験することができる、人生やりなおし機(*1)の方が近いかもしれません。 
  なぜなら、舞台となる「魔法世界」は元の世界のパラレルワールドであるという説明がなされているからです。パラレルワールドとは、宇宙の別の可能性を具現化した無数の別の宇宙のことです。もしもボックスは、地球の文明が科学による発達を選んだ分岐点にまでさかのぼり、文明が魔法で発達するような時間の流れに乗り換えたところで、また同じだけ時間を進んできたのです。 
  したがって、元の世界と物理法則まで異なるわけではありません。「科学世界」にも魔法世界の魔法にあたる、精神力を物理的なエネルギーに変換する原理は存在していました。簡単に言うと超能力です。ただ、科学世界では純物質的な色々の法則が先に発見され、その力で文明が栄えたのに対し、魔法世界では精神の力、魔法が優先権を得たのです。科学世界でも同じ力はだいぶ後で発見され、ドラえもんはそれを利用した道具もいくつか持っています。たとえば「エスパー帽」(*2)がそうですね。 
  もしもボックスはのび太の命令に従い「魔法の世界」にタイムスリップしました。しかし、その世界は文明の基礎となる技術が魔法であっただけで、全体としては科学世界と非常に似ていたのです。ここで第一回『のび太の恐竜』の時に説明した「時空間の運命論的作用」を思い出してください。この作用で、魔法世界は科学世界とほぼ同じような過去と現在を持っています。そのためのび太とドラえもんは戸惑いながらも何とか魔法世界に適応できたのです。 
  魔法世界では科学を「迷信」と呼んでいますが、これには歴史的な理由が絡んでいます。この世界の魔法研究が未熟だったころ、純物質的な作用だけを扱って研究していた知的な流れがあったんです。それが、おそらく魔法技術の実用面での躍進に押されてすたれてしまった。後から発達した魔法技術の目で昔の研究を見てみると、間違いだらけだった(そんなもんです)当時の物質科学は「なんだこりゃ、迷信の塊じゃないか」としか見えなかったのです。そんなわけで魔法世界での科学は「迷信」の体系として歴史的には認知されることになります。我々の世界での、錬金術や陰陽家といったような過去の自然哲学体系だって、歴史の配剤次第では実証的方法論を開発し、科学と同じものにまで成長したかも知れません。 
  これに反論が出るとしたら宇宙空間でしょう。月に兎がいたり、土星の輪が光輪でできていたりしますから。やはり物理法則ごと違っているのではないか、という。しかし三百年以上前、悪魔が地球にいた時代があったのですから、何らかの理由で彼らが太陽系に改造を施したとしても不思議はないでしょう。なにしろナルニアデスの時代にから、すでに彼らは魔界星全体を「黒い炎」のような高熱のバリアで覆い(にもかかわらず昼夜の区別はあります)、しかもその惑星の環境を維持できるほどの技術力を持っていたのです。 
  もう一つ、彼らの技術力の証拠がデモン座アルファ星ですが、この星が魔王の心臓だというのは魔界側の嘘ではないでしょうか。だって単純に、どう見ても魔王より大きいじゃないですか。心臓以外の所に何をしても平気というのも納得できません。きっと、あの心臓が魔王本体、もしくはその居城だかで、大魔王デマオンと名乗っていたのは幻影に過ぎなかったと考えます。 
  形式的にはこのデマオンを頂点に、魔界では厳しいヒエラルキーが確立しています。帽子の星の数が多いほど偉い、という分かりやすいシステムですが、なぜか帽子をかぶっていない連中もいます。大怪魔ツノクジラのような動物系はいいとして、まず魔王、彼はまあ、帽子などかぶらなくても誰でも知っている最高権力者です。それから人魚ですが、こいつらは実は知的生物ではなくてただの動物である可能性があります。口を利いたことはありませんから(「歌」にも歌詞らしいものはありません)。  しかし、問題はメジューサです。帽子もありませんし、外観も他の悪魔とは全然違う。こいつはどういう階級にいるのか? 「魔界星が地球に接近する」という点にヒントがありそうです。おそらく魔界星が宇宙を旅する過程で、何らかの理由で悪魔の勢力に加わった異星人なのでしょう。『宇宙漂流記』には幻影の星という、テレパシー系の超能力を使う人食い植物の星が登場します。この植物がメジューサによく似ています。たぶんこの星がメジューサの故郷なのではないかと思います。 

  ところで悪魔達は、科学世界ではどうなっているのでしょうか? 地球と同じように、あの星で科学世界なりに発展し、文明を築いていると考えるのが自然でしょう。そして魔法世界と科学世界が、同じ歴史を持つのだとすれば……。 
  そう、やって来るのです。科学世界に相応しい姿をとった、宇宙からの侵略者が。彼らの手から地球を守る戦いに、ドラえもん達は再び起ちあがります。 
  その侵略者の名は…………『鉄人兵団』! 

(*1 てんとう虫コミックス15巻) 
(*2 てんとう虫コミックス7巻) 

 

 
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