のび太の海底鬼岩城 『のび太の海底鬼岩城』(1983)
 
  夏休みにキャンプに出かけることになったが、海に行くか山に行くかで意見が分かれてしまった。そんな四人にドラえもんは「海底の山」へ行こうと提案する。水中バギー(声・三ツ矢雄二)で海底見物を楽しむ五人、目的地は太平洋の海底山脈だ。一方で丁度ニュースになったバミューダ・トライアングルの沈没船を探すため、ジャイアンとスネ夫はひそかに大西洋行きを計画する。ついに二人は水中バギーでこっそりと太平洋に向かった。その途中で、彼らの体を海底に適応させていた道具「テキオー灯」の効果が切れてしまう。救命不可能と思われた二人を助けたのは、なんと海底人だった。海底の国ムー連邦に捕らえられた五人だが、意外にも海底人に「力を貸してほしい」と頼まれる。滅びたはずのムーの敵国アトランティスの遺跡に残されたコンピュータ・ポセイドン(声・富田耕生)を倒さなければ、全世界が核ミサイル「鬼核弾」の餌食となる! 地球の滅亡を防ぐため、五人はムー兵士エル(声・喜多道枝)とバミューダ・トライアングルに向かった。  
 

  上記の通り、四人の体を海底に適応させていたのは「テキオー灯」ですが、ドラえもんはこれを必要としません。彼は非常に頑丈にできていて、痛覚センサーの感度さえ調節すれば地球の海の水圧程度は平気なんです。ザ・ドラえもんズの王ドラやドラリーニョといった連中は、人間がやったら手足がもげそうな立ち回りをして平気でいるでしょう。さらにドラえもん自身『雲の王国』で、雲の王国が犯罪者に奪取されたとき、特殊合金製「雲もどしガス」タンクを捨て身の体当たりで破壊するという(超必見!)シーンがあります。さすがにダメージを受けて気絶しましたが、外装は傷付いておらず、キー坊のヒーリング能力だけで復活しました。大したものです。水中バギーより強いんじゃないか? 
  このバギーがジャイアンとスネ夫の命をおびやかしかけた時(自業自得とも言えますが)、ドラえもんは「やっぱり壊そう」なんて恐ろしいことを言っています。お前と同じロボットだろ!可哀相よ、と止めたしずかの次のセリフ「機会に良い悪いを区別する力なんか無いわ!」もかなり凄いですが。ドラえもんをなんだと思っているんでしょう。バギーを問答無用で壊すという発想は、バギーには人権が認められていないことを意味します。よく考えたら、ずっとポケットに閉じ込められていたんですよね。ロボットには、ドラえもんも含め、人権が認められていないということでしょうか? 
  「知的生命体」と簡単に言いますが、宇宙には色々な種族がいます。地球人と地球の猿の中間ぐらいの知能の種族、地球人並みの種族、地球人より遥かに賢い種族もいるかもしれません。線引きはどこですべきでしょう? また、生物とは何でしょうか?カラダの素材+知能? 宇宙にいる意識体がみな我々と同じような素材の体をしているわけではありませんし、ロボットが金属製とも限りません。『宇宙漂流記』には金属のクモが登場しました。『日本誕生』のギガゾンビの部下ツチダマは、形状記憶セラミックスのロボットでした。彼らとドラえもんの何が違うのか? また『鉄人兵団』のメカトピアのように、完全なロボットが支配する星もあります。未来の宇宙社会では、様々な生物・意識体の権利問題をどう解決しているんでしょうか。全ての生物や意識体に権利を認めるなどという暴挙を行なったら、どの星の秩序も成立しなくなってしまうでしょう。やはり、知能程度や精神的な自己コントロール能力が重要な基準になって決められるのではないでしょうか。むろん宇宙の政治的事情によって、かなり御都合主義的な決定が為されるのが実状でしょうが……。バギーは単純ですし、(きわどく)人権が認められない部類に入っているのでしょう。ネコ型ロボットは量産品ですから、おそらく一律に認められているんでしょうね。 
  さて、海底の二大国家、ムーとアトランティスはどちらも宗教国家です。アトランティスは長い間ムーと対立し、自動報復システムという、アメリカのスターウォーズ計画みたいなもので核戦略を練っていましたが、核実験に失敗して7000年前に滅びたという話です。ポセイドンは、火山活動を敵襲と勘違いして、鬼角弾(核ミサイル)を発動させようとします。というかアトランティス自体が7000年前に滅びていることを認識できていません。エルの言う通り「あんまり性能が良くない」のです。そのくせ、まるで自我を持っているかのように喋るのを不自然に感じた方も多いでしょう。実は、こいつは単純なプログラム通りに喋っているだけです。しずかやバギーが口を利くと回答しますが、たぶん何パターンかの喋り方が用意されているんでしょうね。性能的には現代の陸上のコンピュータと同程度と思われます。スネ夫の指摘どおり鬼岩城が地底に隠されていれば安全だったのですが、そうしなかったのは宗教的な意味があったからでしょう。7000年前のアトランティスの支配者は、国民の士気を鼓舞するため、鬼核弾の管理用コンピュータをアトランティスの力のシンボルとして利用することを考え付きました。画期的な自動報復システムと、彼らの戦神のイメージを融合させて儀式用ロボットを作ったのです。それが<復讐の神>ポセイドンです。ムーが信仰するナバラの神はイルカを抱いた女神ですね。こちらはあまり戦神っぽくありません。 
  バギーのコンピュータには「海に関するデータはほとんどあるのですが」海底人の存在を知りません。二十二世紀になっても陸上人は彼らを知らないんです。あの科学力で見つかっていないということは、やっぱり滅……いやいや、早まってはいけません。 
  五人が海底で冒険するエピソードがもう一つあるんです。五人が浦島太郎物語の真相を解くために八百年前の日本でうらしを追跡するという話です。この話で彼らは、同じ海底に住み、ムー連邦人よりも完璧な方法で隠れている連中に会います。ただし、この二種族は生物学的に別種です。『海底鬼岩城』の海底人は陸に出るのにはテキオー灯が必要です。つまり純然たる水棲生物であるのに対し、こっちの海底人は超空間を利用して陸上と同じ環境を造り出して生活しています。ひょっとしたら彼らに誘われて、海底人は異次元に隠れ住むことになったのかも知れません。なぜなら、ムー連邦人は陸上人に根強い不信感を抱いているからです。地上の血みどろの歴史を見てきたからだそうですが。ま、『海底鬼岩城』本編中の海底人の言動を見る限り、陸上人より特にましな種族とは思えませんがね(*1)。 
  さらにこのエピソードで、航時局なる組織の存在も明らかになります。 

(*1 このように、表面的な歴史から民族の特徴を安易に判断することは大変に危険である。米イェール大学の心理学者ミルグラムは、ナチスの残虐行為の原因をドイツ人の権威に盲従的な国民性にあると考え、アイヒマン実験として知られる心理実験を試みた。サクラの被験者を偽の電気椅子に座らせ、白衣を着た実験者が真の被験者に指示を出して電気椅子の電流を操作させる。彼はドイツ人と比較するため、まずアメリカで実験を行った。しかし結果はアメリカ人・ドイツ人に拘わらず多くの人々が命令に服従し、悶え苦しむサクラの演技にもかまわず電気椅子のボタンを押したのだった) 

 
 

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