のび太の大魔境 『のび太の大魔境』(1982)
 
  「神秘に満ちた魔境探検がしたい」というジャイアンとスネ夫の提案で、前人未踏の地を探すことになった。のび太たちはドラえもんの人工衛星を使い、とりあえずアフリカのザイールを調査し始めた。丁度そのころ、のび太がなついてきた野良犬を飼うことになる。「ペコ」と名づけられたその犬が衛星の操作盤をいじったことで謎の巨神像が発見される。いよいよ魔境探検が始まった。ところが、気分を求めたジャイアンのわがままで幾つもの道具を置いてきてしまったため、楽しいはずの冒険は一転、苦難の連続となる。責任を感じるジャイアン。だが、その過程でペコの正体が判明した。彼は目的地である犬の王国の王子クンタック(声・清水マリ)だったのだ。簒奪者ダブランダー(声・滝口順平)によって追放されていた彼は、ダブランダーの野望――古代兵器の復活と外界侵略を阻止するため、5人に助力を依頼した。バウワンコ王家にはひとつの予言が残されていた。「王国に危機迫る時、十人の外国人が現われ国を救う……」と。謎が解けぬまま、ドラえもんたちはクンタックの王位奪還を手伝うことになるのだった。  
  

  この作品では、ジャイアンが道具をいくつか日本に置いて来させてしまったため予想外の苦労をします。これについて、大長編に限らず『ドラえもん』でピンチのとき大抵の人が考える疑問があります。あなたも思ったことがあるでしょう。「なんであの道具を使わない?」って。確かに「一回限りの使い捨てが多い」とドラえもん自身言っていますが、何度も登場した道具もあります。 
  しばしば修理中ということになっているんですが、ああまでいつも修理やメンテナンスに出しているわけでもないはずです。この際、考えられるケースを挙げてみましょう。どの場面でどの事態が発生していたのかは知りようがありませんが「ま、どれかだったんだろうな、運が悪かったな」と今後は思ってください。 
  まず、タイムパトロール関係の事情があるのではないかと推測されます。おそらく合法的な時間旅行者の義務として、時間旅行先で使った道具の使用記録をタイムパトロールに提供しなければならないんです。そうしないと未来科学を使った形跡から犯罪者を追跡することが困難になってしまうんですね。メカに自動記録されているのを道具ごと定期的に送っているのでしょう。 
  次に、ドラえもんが使ったことのある道具すべてが彼の所有物とは限らない、ということを指摘できますね。未来デパートなどで「お試し期間」中のものを使っていたけれど、期限切れで返却してしまった道具がだいぶあるのではないでしょうか。 
  そして特殊なケースですが、ピンチ自体が他の道具の効果である場合、副作用で特定の道具を受け付けなくなっていることもあるでしょう。たとえば『のび太の宇宙小戦争』でスモールライトを敵に奪われ、小さくなった状態から解除できなくなってしまったケースです。スモールライトで縮小した物体には、ビッグライトやガリバートンネルは効かないのかもしれません。 
  あとはドラミちゃんや未来の知人に貸したとか、いろいろ細かい事情があることもあるでしょうね。ドラリーニョとか返してくれなさそうだな……。  とにかく、残った道具とペコ(クンタック王子)の手助けもあり、何とか目的の王国にたどり着きました。遥か昔、ここは火山活動で外界と分離されてしまい、生物は外界と異なる進化を遂げました。外界では猿が進化して文明を築きましたが、ここでその権利を得たのはイヌの仲間でした。以上はクンタックの推測ですが、真相はイチの文明(*1)の残党ではないかと思います。 
  この国の風景は、ぱっと見ると中世ヨーロッパに似ています。見た目だけでなく、王政を敷いているところや、科学技術のレベルもその程度のようですね。昔はそうではなくて、わりと高度な科学力を持っていたことが判っています。とくに兵器技術はかなり発達していたようで、五千年前に戦車や飛空艇がすでに開発されていました。それが廃れたのは、建国者であるバウワンコ一世が研究を禁じてしまったためです。「賢明なるバウワンコ一世は、兵器の限りない発達が国の滅亡を招くと考え……」なんてクンタックは言ってますが、純真すぎると言わねばなりません。宗教だの理想だのを支配手段としている国家では、国民に自由な科学的思考を許すことは致命的なんですね。兵器だけでなく新技術の研究いっさいを禁じたため、国全体が中世みたいな世界のまま存続することになりました。その裏で、いざというときのために一体だけ、神像と称して巨大ロボットを建造しました。宗教的理由を口実にすることで自分の人格評価をも高めるという一石二鳥の作戦です。また一体しかない最終兵器を神聖化することで無闇にいじらせないようにする目的もありました。科学の弾圧で、もし壊れたら修復不能になることを承知していましたから。その証拠に巨神像は徹底的に丈夫に造られていて、五千年経っても問題なく動くし装甲も異常に厚いのです。建造に携わった技術者は皆殺しになりました。予知能力があったとはいえ、彼の抜け目のなさを純粋に評価すべきでしょう(*2)。 
  本人の動機はどうあれ、彼の死後は平和な時代が長く続きました。対外的な事件は、近くの原住民との小競り合いくらいしかなかったと思われます。 
  しかし五千年後、一人の天才が出現しました。コス博士(声・永井一郎)です。真の黒幕は彼です。バウワンコ一世は当然、焚書などを行ったでしょうが、古代兵器に関するごくわずかの資料は残りました。ただ、それだけの資料から当時の技術をトレースするには、コスという天才を待たねばならなかったのです。資料中の兵器を、軍隊を、自分の手で実現させたいと思ったコス博士は、クンタックの婚約者に惚れていた大臣のダブランダーに接近して外界進出の野心を吹き込みました。しかし、強硬に反対したのがクンタックの父・バウワンコ一〇八世でした。そこで王位簒奪劇を仕組んだのです。あの親子を殺せば姫も貴方のものにできる、とでも言ったのでしょう。愚かな男(にしか見えない)ですから、コスがアドバイザーになることで常にコントロールしていました。 
  コスが入手した資料には、巨神像のことはほとんど(あるいは全く)書かれていませんでした。そのため自分が再開発した兵器のちょっと豪華なやつぐらいにしか考えず、正面から突っ込んでしまったのです。巨神像開発者が皆殺しになったと書きましたが、これがその根拠です。コス最後の攻撃は飛空艇の先端から巨大ドリルを出して貫くことでしたが、回転中のドリルをまさか手掴みにされるとは思わなかったでしょう。飛空艇は墜落、コスも含めて乗員はまず助からなかったでしょうね。 
  ともあれ「十人の外国人」の活躍で一味は倒され、王家にひとまずの安定がもたらされました。誠実な青年であるクンタックは、人望もあるようですしバウワンコ一〇九世として平和な時代を築くことでしょう。さらにその後、この国がどうなるか……それはまだ分かりません。ドラえもんが彼らの存在を知らなかった事実が、彼らの滅亡の運命を示しているのでなければ良いのですが。 

(*1 てんとう虫コミックス22巻「のら犬イチの国」。イチはのび太が拾った犬。住む場所のない犬や猫がイチの他にも数多くいることを知ったのび太とドラえもんは、彼らを集めて進化退化放射線源で三億年前のアフリカに放つ。その後、彼らは高度な文明を築いたが、地球に大規模な環境変化が近づいたため住みよい星を求めて宇宙へ移動したというエピソード。イチはこの文明の初代大統領であったらしい) 
(*2 予知能力というのは必然的に、意外と不便なものである。もし予知能力が瞑想のような何らかの能動的活動を必要とするのなら、五千年の歴史の中で偶発的危険を知るには五千年の瞑想が必要になる。お告げのように未来の特定の事件が突然わかるとしても、今度は告げられなかった危険に対処するため、予知能力がない者と同じように将来設計はしなければならない) 
 

 
 

『のび太の宇宙開拓史』に戻る『のび太の海底鬼岩城』に進む
ネコ型ロボットのいる宇宙に戻るトップページに戻る