野比玉子、エコロにハマる! ついにこの時が来ました。退屈な日常を持て余す中年主婦に襲いかかる、悪魔の誘惑エコロ。その魔の手がついにのび太のママにも迫ってきたわけです。 野比玉子さん――のび太のママは、ごく平凡な専業主婦なんですね。エコロなどの市民運動は、平凡な毎日に刺激をもたらし、自意識を満足させてくれる格好の場なわけです。なかなか典型的なハマり方をしているようです。発端は学校のうら山の開発問題ですが、『地球のミドリを守れ』『環境汚染とその対策』『人間に未来はあるか』と、ありがちな題名の本を読み漁って、みるみる感化されていきます。「いろいろ調べてみて驚いたわ……森が切り開かれているのは日本だけじゃないのよ」と、当たり前のことを小学生の息子に向かって演説するママの姿は、エコロづいた主婦の典型的な姿ですね。「毎年切り開かれる森が日本の半分」とか「砂漠が地球の1/3(正しくは陸地の1/3ですね。地球の1/3が砂漠化したら緑の陸地は残りません)」とか、なんとなくセンセーショナルなだけで役立たない比率を丸暗記して得意になるさまも非常によく見られます。エコロ系の本やパンフレットは、なぜかこういう表現が好きです。 同じ頃、はるかなアニマル惑星も開発されようとしていました。アニマル惑星は、1000年前、ニムゲ(人類)の科学者によって改造された動物たちの住む星です。ニムゲのほうはというと、核戦争で壊滅状態にありアニマル惑星を放置したままでした。ところが1000年が経過し、秘密結社「コクローチ団」がついに侵攻を開始したのです。 このアニマル惑星には、一切の武力がありません。 ニムゲの科学者(以下「神」と呼びます)が「平和な世界」を理想としていたのは分かりますが、ニムゲが攻めてきたらどうするつもりだったのでしょうか? ピンクのもや=どこでもガスがあれば、もっとニムゲの星から遠い、安全な惑星で動物の楽園を作ることだってできたはずです。しかしニムゲの科学者が選んだのは、よりにもよってニムゲの星と連星になっている一方の惑星なのです。自衛手段も持たせずに放置しておいたら、いずれニムゲに侵略されるに決まっています。 こう考えれば疑問は氷解します。科学者「神」は、災いの種をあらかじめ取り除いておくことで、アニマル惑星の安全を保証するつもりであった、と。1000年前、核戦争によってニムゲの星はめちゃめちゃになった、と語られています。「神」が動物たちをアニマル惑星に移住させたのも1000年前です。ほとんど同時期の話だったわけですね。じつは、この核戦争は、科学者「神」自身が人類を滅ぼそうとして挑んだ戦いだったのです。文明を崩壊させることには成功したものの、人類の根絶までには至らず、最後には敗れてしまいました。まあ、それだってたいしたものですが。 科学者「神」は、人類を敵視し、他の動物を極端に善良な存在として理想化するような特殊な思想を持っていたものと思われます。 そもそもアニマル惑星を作った動機が、合理的な理由では説明できません。人間と同じ生活をするように改造された動物の社会を作っても、生態系の保存にはなりえません。それどころか遺伝子プールにさえなりません。エコロジー技術の試用にしても、アニマル惑星のエコロジー技術は機械によるものです。天敵の利用のように、住民である動物達の特殊な能力を使っているわけではないのですから、ニムゲの星で十分に試用できたはずです。 人類を滅ぼすことこそ出来ませんでしたが、文明が崩壊したことで1000年の間アニマル惑星の安全は守られました。といっても、文明を一から作り直したわけではありません。以前の科学知識は残っていますし、劇中にあるように使える部品はまだまだ廃墟に埋もれています。もちろん人類はずっと前からアニマル惑星の存在を知っていたでしょうし、侵略することも技術的には可能だったでしょう。 コクローチ団を一網打尽にしたのは、ニムゲの「連邦」警察です。細かい実態は不明ですが、連邦と呼ぶ以上は複数の統治機関が連合した集団であることは間違いありません。ニムゲがアニマル惑星に手を出さなかったのは、連邦内のパワーバランスが均衡した結果でしょう。アニマル惑星が開発されるようになったら、連邦内における力のバランスが崩れて、現在の支配層が不利益を被る可能性が認識されたわけです。で、それなら手を出さないほうがまだマシだと、自分も敵もアニマル惑星に手を出せないように条約を締結していたわけです。だからこそ、侵略どころか平和的な接触さえしなかったのです。 もちろん、条約の安定のためにも大義名分が必要です。アニマル惑星に来た連邦警察部隊のリーダーらしき人物が涙ながらに語った「1000年前に、もう過ちは繰り返さないと私達は誓った。それなのに、昔の夢を捨て切れない愚かな連中(コクローチ団)が、宇宙は人間のためにあるなどと、この星の皆さんに迷惑をかけてしまって……」といった思想は、そういった関係で為政者によって活用されている思想であると思われます。もちろん、全然関係ない問題から目をそらすため、アニマル惑星問題を利用していた面もあったでしょう(*1)。 今回のコクローチ団による侵略は未遂に終わりましたが、この2つの惑星はかなり危うい関係にあるようです。どのみち、これほど近くにある二つの文明圏がこのまま交流なしに続いていくことは有り得ないでしょう。二つの惑星の関係が、なるべく平和的なものとして再開されることを望まずにはいられません。
(*1 アメリカ政府がベトナム戦争から市民の目をそらすために、捕鯨問題を大々的に取り上げたようなものである。)
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