友達の前で口を滑らせ「恐竜一頭まるごと」の化石を見つける約束をしてしまったのび太(声・小原乃梨子)。ドラえもん(声・大山のぶ代)に手伝いを断られ、苦心の末に発掘したものは日本産の首長竜・フタバスズキリュウの卵だった。のび太は卵を孵化させ「ピー助」(声・横沢啓子)と名づけて大切に育てる。しかし現代にピー助の居場所はなかった。白亜紀へ送り返す、そう決心したのび太の前に謎の男(声・加藤精三)が現れ、ピー助を買い取りたいと申し出る。男は恐竜ハンターと呼ばれる時間犯罪者だった。のび太は拒否し、予定通り白亜紀へ返すことにする。だが、強硬手段に出たハンターの攻撃でタイムマシンの空間移動機能が故障、ピー助を日本ではなくアメリカ大陸に置き去りにしてしまう。再び白亜紀のアメリカに旅立つのび太たち、そしてジャイアン(声・たてかべ和也)、スネ夫(声・肝付兼太)、しずか(声・野村道子)を更に災難が襲った。タイムマシンの故障が悪化したのだ。現代に帰るためには自力で日本まで空間移動しなければならない。恐竜ハンターの追撃を逃れながら、白亜紀を舞台に、アメリカから日本への大旅行が始まった。
ピー助=フタバスズキリュウという動物は、正確には首長竜であって恐竜ではありません。当時の大型爬虫類をみんな恐竜だと思っている人もいるようですが、例えばプテラノドンは翼竜、イクチオサウルスは魚竜という具合に、分類上「恐竜」でないものもいました。これをスネ夫が知っていたら、のび太の賭けは危なかったことになります。それとも、のび太の努力に免じて見逃してくれたんでしょうか?
さて、初代の敵役、恐竜ハンターは未来の犯罪組織ですが、かなり弱いんですね。ティラノザウルス一匹に本拠地が大混乱に陥っている。ドラえもんよりかなり前の時代からやってきたことは間違いありません。たぶん21世紀の連中でしょう。ちなみにタイムマシンの発明は2008年です(*1)。
もう一つ、どうやら恐竜ハンターはスモールライトを持っていません。基地がやたら大きいんです。大森林の、少なくとも一辺が十数メートル以上はある正方形の地面がいきなり陥没して、それが秘密基地の入り口なんです。入り口がこんなに大きいのは、恐竜収容のための大輸送機を入れるためですが、こんな大仕掛けでよく今まで見つからなかったものです。ドラえもん――未来人がものを小さくする技術を使えるということだけは知っていたようですが。
それでもタイムパトロールはハンターの基地をこれまで発見できずにいました。のちにドラえもん達は恐竜ハンターより遥かに手強い、23世紀から来た時間犯罪者ギガゾンビという人物と対決します。その時も彼らは犯罪者のアジトを見つけかねている。藁を掴むように、行き倒れののび太に発信機を持たせたりしています。彼らがこんなに苦戦している理由は「タイムパトロールは自分達の時代出身の時間犯罪者のみの捜査を優先する」という原則があるからだと思われます(もしかしたらハンターの基地は『のび太の大魔境』のヘビー・スモーカーズ・フォレストのように、一年中厚い雲で覆われて人工衛星での偵察ができない地域に建設されているのかもしれません。同時代のタイムパトロールが雲を貫通して観察するスパイ衛星を持っていなかったというのは、ありうることです)。警察も動員できる部分に限度がありますし、法律だって変化します。いちいち「この法律はいつから有効で、あなたがタイムマシンに乗ったのは何年の……」とチェックしていたらきりがないので、原則的に(例えば現行犯以外は)他時代の時間犯罪者は関知しないことになっているのでしょう。
しかし、逮捕されたハンターは、23世紀の刑務所に送られるそうです(もちろん裁判終了後に、という意味でしょうが)。鉄則ではなくて、どうしても必要があれば更に未来の司法当局の応援を頼むこともあるらしいです。恐竜ハンターのような組織犯罪の場合、仲間がタイムマシンなりなんなりで脱獄を手引きした場合、防ぐ技術がハンターの時代の刑務所にはないんでしょう。というわけで刑務所でだけ、23世紀と提携しているんでしょうね。
だったら、恐竜ハンターこそまさに未来と協力してでも急いで逮捕しなければならない相手ではないか、と思うかもしれません。ドラえもんによれば、恐竜ハンティングは人類の先祖の環境を激変させうる、下手をすれば人類の存在そのものに影響を与えかねない行為で、禁止されているのもそのためです。
実は、ドラえもん世界の時間軸というのは、多分に運命論的なものに支配されているんですね。時間旅行者が過去に溯って世界に及ぼした影響は、なるべく小さくする力が働くようになっている。これを仮に「時空間の運命論的作用」と呼びましょう。この概念は『ドラえもん』世界を理解する上で非常に重要になってきますので覚えておいてください。
ドラえもんの初回は「未来の国からはるばると」です。アニメ化されていません(*2)が、このエピソードで、この作用についてもう少し詳しく話されています。僕の未来が変わったら君は生まれてこなくなる、と指摘するのび太に、彼は乗り物が違っても目的地が同じなら同じ場所につくように、同じ未来にたどり着く方法は幾らもあるのだと説明しました。事実、のび太の結婚相手が変わることがほぼ確定しても、セワシは問題なく存在しています。外見や人格に目立った変化もありません。たった4代前の先祖が全くの別人になってしまったというのにです。ただし、時間旅行者が何をやってもカバーされるわけではありません。この理論が示しているのは、時間旅行の影響がごく通常の確率で起こる物理現象によってある程度償われることだけです。カバーしきれなくなればツケは未来に回ってきます。恐竜ハンティングによる人類消滅も有り得なくはないが、法的禁止と違反者の地道な摘発が抑止力となっている限り、まず起こることではないというのが結論です。
ちなみに、ドラえもんは二十二世紀で逃走中の彼ら(ボスらしき黒ずくめの男と、大富豪ドルマンスタイン(声・島宇志夫)の二人)の逮捕に偶然ながら貢献したことがあって、その手柄を記念してミニドラたちが造られたというエピソードがあります(*3)。ドラえもんの主観時間では過去の話なのですが、ハンターにとってはどうだか断定できません。ですが、服装が『恐竜』と同じであるところから、『恐竜』で一度逮捕されて護送中に脱走したのではないかと考えられます。
(*1 てんとう虫コミックス41巻36ページ)
(*2 アニメ版の初回は「夢の町のび太ランド」。『南海大冒険』以降の劇場版では、通常版の名作エピソードの一つをリメイクして同時上映しているので、来年あたりアニメ化されるかもしれない。ちなみに今までリメイクされたのは『帰ってきたドラえもん』『のび太の結婚前夜』『おばあちゃんの思い出』)
(*3 映画『2112年ドラえもん誕生』) |